分からなくても良い。
でも、知っておきたい。
杏ちゃんが、どんな人生を送ってきて、どんな過去を持っているのか、何を、どういう風に感じて、考えているのか……
知った上で、杏ちゃんと接していきたい。
「そう思ってるのに…」
『え?』
「ぁ、いえ…。」
中々、そう簡単にうまくはいかないわよね。
ドラマやマンガじゃないんだし。
『水川さんも大変ね。私も頑張らなきゃ。ありがとう、なんか元気もらっちゃった。』
「ぃ、いえっ…それほどでも…。」
『最近は、患者のメンタルケアが重要視されてるじゃない?今の看護医療では、患者の全人的理解が求められてる。でも、そう簡単に患者を理解するなんて、出来っこないのよ。人間一人ひとりにはそれぞれの歩んできた人生があって、考え方があって…。それは患者も同じ。だから、無理に分かろうとするのは患者に対して失礼なんじゃないかって、最近思うのよねぇ…。だってそれじゃ、患者がモノみたいじゃない。』
長年、看護師を務めているからこその考え。
すごく、その言葉が、身体にしみ込んできた。
『だから、ちょっと嫌気がさしてたの。でも、……心を閉ざしてる患者に、健気に接してる水川さん見て、私も悩んでなんかいられないって思っちゃった。ありがとう。』
「ぃ、いえ…ッ!」
『さっ、仕事に戻ろうかなぁ~。師長に怒られちゃう、ふふっ』
「私、秀人くんのバイタル録ってきます。」
そうして、それぞれ仕事に戻った。

