誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




「………これ、」



杏ちゃんに差し出したのは、小説。

哲学書…は、買いたかったんだけど、どれまで杏ちゃんが読んでるのか解らなくて、やめた。


そして選んだのは、杏ちゃんが読みそうもない、恋愛小説。


古典文学でも名の知れている『源氏物語』。


相当なシリーズだったけど、お金がないので、1、2巻だけを買った。



「…退屈だったら、読んで。」



本をただじっと仰視している杏ちゃんの目の前に、本を置いた。


読んでもらえるかな…?


「読んだら、感想聞かせて?じゃ…また来るね、杏ちゃん。」


チラッと見た杏ちゃんと目が合う。

は、初めてだ…っ!

初めて目を合わせてくれた!!


やった!!


ドアを閉めた私は、跳び跳ねて喜んだ。