誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




『……それで、申し訳ないんですが、杏ちゃんの移動を頼めますか?また急患が運ばれたみたいで……』


後藤先生の手には、震える病院の携帯電話。


皐月の顔からも笑顔が消え、緊張に変わる。

……これが、救命――…



『ぁー……』

「先生、私がします。」

『そうか?じゃぁ、頼むよ。』

「はい。」


気付いたら、口が動いてた。

少しでも役に立ちたい――…そんな思いが、私を突き動かしたのかもしれない。


『では、今からでも。……井坂さん、杏ちゃんのベッドまで案内を。終わったら救急車の出迎え。俺は先に行くから。』

『はい!…こっちよ。』



走っていく後藤先生を見て――…私も頑張ろうと思った。