誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




―――そして、1時30分。

杏ちゃんの引き継ぎの時間。


『遅いなぁ…。』


時計を見ながら、林田先生はそう言った。

そう言えば、真山さんが、意外に林田先生も時間に厳しいって言っていたような――…



「急患が入ったんじゃないですか?ほら、榊先生は急患処置の天才ですし――…。」

『まぁ、患者のためなら仕方ないが…。』



榊先生は、救命センターのセンター長。

患者を助けるのにはピカイチだけど、受け入れ患者の数が凄まじいとか――…皐月が言ってたっけ。



『たまたま今日は少し時間がズレても調節できるが…いつもこうだと参るよ。』

「あはは……」



私は苦笑いしか返せなかった。

救命のことなんて私はなにも知らない。


だから、私が救命のことをとやかく言う権限はない。

こういうの、リアクションに困るな…。