誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




――『水川さん、』

「はい?」


仕事中、私は婦長に呼ばれた。


『今日、救命センターから患者さんの引き継ぎがあるのは知ってるわよね?』

「ぁ、はい。確か……マンションの階段から落ちて重傷を負ったっていう…?」

『そう。名前は桜井 杏ちゃん。15歳。聞くところによると……その子、入院してから一切口を開かないらしいの。』

「え…?」


口を開かないってことは、心を閉ざしてるってことで……。

転落からのショックで、そうなってしまったんだろうか。


『だから、この子のケアを貴方に任せます。水川さん。』

「え…っ、で、ですが婦長!申し送りでは、その子の担当は真山さんだと――…、」

『さっき、救命センターから指名が入ったのよ。是非、桜井 杏ちゃんのケアを水川さんにお任せしたい、と。』

「は、はぁ…?」


救命センターの指名って……

皐月、だよね。絶対…!