誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―


……早くシチュー作ろ。

冷静になった私は台所に立つ。

まずエプロン…って、


どこだ…?エプロンはどこにある?

周りを見渡してもエプロンがないので、新様に尋ねようと後ろを向くと…、


「ぬわぁっ…!!」

『!?』


ちょうど上半身姿でTシャツに着替えている新様と目が合ってしまい、変な奇声を発してしまった。


「もっ…申し訳ございませんッ!!なっ、何も、新様の上半身姿を見て見惚れてしまったとか、そんなんじゃありませんから!!私は何も見てません!!」

『……クスッ、』


即座に新様に背を向けている私の後ろから、新様の笑い声がする。

さっきのことと今のことで、心臓はバックバクのドッキドキだ。

ダメだぁ…

さっき新様の着替え姿を想像しちゃったせいか、生・新様着替えビジョンが頭から離れないよぉーーっ!


ぁあ、今ので『おねーさんって、変態なんだ』とか、新様に思われちゃったら私………っ


「…ォー…マイガット…」

『何が?』

「ぇあっ…って、わぁあッ!!」


すぐ後ろで私の言葉を聞いていた新様にびっくり。

しかも、


「なッ、何でまだ服着てないんですかっ!?」


さっき見えた時に新様が着かけていたTシャツを着ていない、上半身裸のままで。

新様、私を鼻血という名の大量出血で死なせたいのですか!?


『んー?着なかったらおねーさん、どんな反応見せるかなって思って。』

「む…ぉ、驚くにきまってます!イジメないでくださいッ!」


今にもハートマークがつきそうな軽いノリで言った新様に私は出来る限りの抵抗を見せる、が。


『いじめてるんじゃないよ?意地悪してんの♪』


新様からの数十倍のお返しが返って来た。

しかも、ちょー笑顔だ。

そうか、新様は実はSだったのか…!!

あんなに純粋そうな表情をしておいて…ッ!

くそぅ…と、一人悔しがっていると、


『まだ作らないの?シチュー。』


今度こそはTシャツを着てくれた新様が、不思議そうに尋ねた。