誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




『あーなんか久しぶり、愛美とお茶すんの。ね?』

「そうだね。お互いシフトが合わないし、とくに皐月は大忙しだから。」

『すいませんねー…今日会えただけでもまだマシでしょ?あたし、家帰るの5日ぶりよ。』

「うそっ!?だって、さっき皐月、昨日は夜勤だって…、」

『シフト上はね?だけど、救命センターではそんなの関係ない。急患が軸で回ってんだから。恐ろしいわよ。』


ファミレスで、グビっとコーラを飲む皐月。

そんなに一気飲みして痛くなんないのかなぁ?


『そういえば、裕南(ゆうな)にも会ってないなぁ、あたし。』


裕南とは、同じく看護学校時代からの友達。

今は大学病院のお医者さんと結婚してラブラブ新婚生活を満喫中。


「私も。裕南ってば旦那さんラブで忙しいみたいだし。」

『ったく、こっちは患者で追われてるっつーのに……』

「まぁまぁ、しょうがないじゃない?劇的な恋だったらしいから。」


結婚するって言った時の裕南の照れくさそうな笑顔。

忘れたくても忘れられない。あんなに幸せそうな笑顔をされちゃね。


『あ、恋って言えばさ、愛実。』

「ん?」

『リョウとどうなったわけ?』

「ぇ」

『付き合うことになったって、前に言ってたじゃん。』


不意に、口元に持って行ったグラスの手が止まった。


『愛実?』


急に何も言わなくなった私を不審に思った皐月が、俯いた私の顔をのぞく。


『その顔は何かあったって顔ね。どうした?何があった?』


皐月は鋭い。

何も言わないだけで、勘付く。

私は人の変化には気づかない。

単純で、鈍感で、バカだから。