誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




診療室から出て、優梨子さんと長椅子に座って待っていると、賢吾を車いすに乗せたあゆみんが出てきて、賢吾が入院する病室まで連れてこられた。


『…賢吾くん、もっと良くなるために点滴しよう。ねっ?』


さっきの嘔吐で症状が治まったらしい賢吾は、あゆみんの問いかけにイヤイヤと首を振っている。


『…看護師さん、賢吾は注射が苦手で…』

『そうですか…』


さっきまで何を言われても落ち着かずにいた優梨子さんも、もうさすがに落ち着いている。

優梨子さんの返事に、あゆみんは困ったようだ。

まぁ、俺も注射は出来ればされたくないしなぁ…。

賢吾の言い分も分かるっちゃ分かるけど、でもこういうときはねぇ…。

俺はもう大人だから、嫌なものでもしなければならないという判別はあるから良いけれど、賢吾は子ども。

そう簡単に首を振りそうにないことは目に見えている。


『賢吾くんは、お注射嫌い?』

『うん…』

『どうして?』

『痛いから……』


予想通りの賢吾の答え。

きっと世界中の半分以上の子どもたちは決まってそう言うだろう。