誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




『すみません、退いてください!』

『!?』

『グブッ…』


俺と優梨子さんが茫然としている中、すばやくあゆみんが動いた。


『賢吾くん、我慢せずに、全部吐いてね…。』

『うっ…』


賢吾に諭すようにビニール袋を賢吾の口に当てながらそう言うあゆみん。

ここにいる誰よりも、緊急事態に手が回るようだった。


『はぁ…はぁ……』

『よし、よく頑張ったね。スッキリした?』

『っ……』


賢吾の背中を撫でて、賢吾があゆみんの質問に首を縦に振れば、あゆみんは笑顔を見せる。

そんなあゆみんに俺はもう目が離せない。


『緒方さん、ティッシュと水とビニールと、アルコール…と手袋をお願いします。』

『はい。』


その手際の良さには、一緒にいたナースさんも呆気に取られていたらしい。

あゆみんの指示で我に返ったかのように奥に消えて行った。


『すみません。少々片付けますので、廊下でお待ちください。』

「『は、はい……』」


それでも未だに茫然としている俺と同じく優梨子さんは、あゆみんの言葉にそんな言葉しか返せなかった。