誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




「賢吾くん、分かるかなー?ここ病院ですよー?」

『っ……』

「賢吾くん、お名前言えるかなー?」

『っ……た、かな、し……けん、ご…』


賢吾に接するその姿は、立派なナース。

賢吾が途切れ途切れに返事をすると、あゆみんは優しい笑顔を見せた。


「えらいね。お姉ちゃん達が絶対治すからね。頑張って、賢吾くん。」

『っ……ぅん…』


ヤバい。

今の、めっちゃクる。

現代のナイチンゲールと言っても良いようなあゆみんのその姿に、俺の心臓はうるさく高鳴った。

茫然としている俺を余所に、あゆみんは賢吾を車いすに乗せている。


『水川さん!』

「今行きます!緒方さん、ご家族のことよろしく!」

『はい!』


診療室から出て来たナースと入れ替わるように、あゆみんは賢吾を連れて診療室の中へと入って行った。