誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




「どうしたんだ?」

『…仕事で、ちょっと、ミスが発覚したらしい。』

「え…?」

『それで、すぐに会社に戻らなければならなくなった。』


悔しそうな蒼の表情は、賢吾を想ってのものだった。


「それじゃぁ、賢吾は…!?」

『とりあえず、優梨子に賢吾を病院まで運んでもらう。…新、お前もついていってもらえるか?』

「俺は別に、良いけど――…」

『すまない。優梨子はきっと動揺してるだろうから、支えてくれると有難いんだ。』


蒼の顔は、今までになく、父親の表情をしていた。

蒼、

お前も変わったな――。


『直に優梨子が来ると思う。俺はもう行かなきゃならないから、…これからのこと、よろしく頼む。優梨子への説明は、俺がしとくから。』

「ぁ、ああ…。」

『体温計、見といて。…じゃぁ、』


簡単に要点だけを言った蒼は、颯爽と荷物を持ってその場から去って行った。