誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




「別に、そんな変わんないけど。」

『はぁ…。』


いつもの蒼の上から目線にも少しムカついた俺は、早速ビールを飲んだ。

負け組でも、プライドってもんがあるんだよ。


『好きな人とか、いい加減出来ないわけ?』

「……別に。」


ぁあ、少しやり過ぎてしまったかもしれない。

いくらプライドがあるからって言って、嘘はよくねえよなぁ…。


『新、お前ももう27なんだぞ?もうすぐ30になるって男が、初恋もまだだなんて――…』

「ばっ、蒼!それは言うなって!!」

『…ワリ。つい、な。』


つい口が滑ったという蒼に睨みを利かせた。

ここに賢吾と奥さんがいなければ、俺は一発コイツを殴っていた所だ。

蒼が言ったことは、俺のコンプレックスだったからだ。

27歳にもなって、まだ初恋もまだな俺。

いや…“だった”が正確には正しい。

俺はもう随分前に初恋に胸を焦がしていたのだ。