誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




『優梨子ー。ビール用意してくんないか?』

『はーい。…あ、滝さん。いらっしゃい。』

「こんばんは。お邪魔してます。」


キッチンから笑顔で顔を出したのは蒼の奥さん・高梨 優梨子さん。

俺より歳が下とは思えないくらい上品な人だ。


『まぁ、新。こっち座れよ。』

「あ、…おう。」


いつの間にかダイニングで寛いでいる蒼のそばに行き、俺も腰を下ろす。


「それにしても、賢吾、また背伸びたんじゃない?」

『そうか?…いつも見てるから、イマイチわかんねぇなぁ…。』


そうは言うものの、誇らしげに笑う蒼の笑顔は、一児の父親の顔だった。

あーあ。

幸せですオーラ振りまいちゃってるよ…。


『んなことより、お前はどうだ?』

「…何が?」

『何がって…、』


まぁ、分かってるんだけどな。

蒼の言いたいことくらい。