誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




「すみません、退いてください!」

『!?』

『グブッ…』


母親を退かせて、吐いている賢吾くんの口にビニール袋を当てる。


「賢吾くん、我慢せずに、全部吐いてね…。」

『うっ…』


賢吾くんの背中を摩る。

少しはマシになるだろう。

私も吐いた時、よくお母さんにしてもらったから。


『はぁ…はぁ……』

「よし、よく頑張ったね。スッキリした?」

『っ……』


荒い息の中で、賢吾くんは首を縦に振った。


「緒方さん、ティッシュと水とビニールと、アルコール…と手袋をお願いします。」

『はい。』


緒方さんに指示を出して、私は賢吾くんの背中を摩り続ける。

6割はビニールで収まったけど、最初に結構吐かれちゃったから、床とか診察台に嘔吐物が飛び散っている。


「すみません。少々片付けますので、廊下でお待ちください。」

『『は、はい……』』


この光景を見てびっくりしている2人を廊下に出させると、頼んだものを持ってきた緒方さんがやってきた。