田所は会いたくないと言った。
だから、どうしたらいいかわからず、黙ったまま見詰めていると、
「あいつとしゃべった?」
田所が虚ろな目で百合を指して問う。
『あいつ』とは多分、ゆきさんの彼のことだ。
「うん、これ、田所に返してって言われた」
もしかしたら凄く残酷な言葉かも知れないのに、思わず真実を答えてしまい、すぐに後悔した。
けれど、もう引くに引けず、私が百合を差し出せば、田所は静かな動きでそれを受け取ると、再び部屋の中へ消えた。
パタン、とドアが空しい音を立てて閉まった。
もう嫌だ、耐えられない。
田所はこんなにも近くにいるのに、もの凄く遠く感じて。
田所の心がどんどん離れてゆく気がして。



