ゆきさんの彼の、冷たい表情や乱暴な行為を思い出し、再びその時の恐怖が蘇る。
彼が、とても冷酷な人に映った。
けれど――
彼が最後の最後で見せた、穏やかな表情も頭から離れない。
いつだったか、ゆきさんは私に、『彼がとても優しいから、喧嘩をしたことがない』と話してくれた。
また頭の中が混乱する。
さっきの彼は本当の彼ではないのかな。
ゆきさんを失って、心が少し壊れてしまっているのかも。
それとも、優しい彼をあそこまで怒らせるようなことを、田所が……
と、カチッと小さく音を鳴らし、田所の部屋のドアがゆっくりと開いた。
制服姿の田所がそこに立って居て。
見上げると、田所はぼんやりとした視線をゆっくり落とした。
拾った百合を片手に、ゆっくり立ち上がると、田所の視線は酷く遅れてついて来た。



