動きを完全に封じられてしまったので、せめて彼の視線からだけでも逃れようと顔を背けると、
「あいつに伝えてくれる?
『今度は俺が、
お前の大切なものを奪ってやる』
って……」
彼の生温い息が私の耳を撫でた。
発せられた言葉とは相反して、とても穏やかで滑らかな口調。
だから尚更、背筋が凍りつく。
恐怖と、驚きと、その他自分でも良くわからない複雑な感情とに胸の奥が掻き乱され、震えながらもゆるゆると見上げれば、何故だか彼は、優しい眼差しを私に向けていた。
益々私の思考は混乱して。
とにかく一分、一秒でも早く解放して欲しい……
私の頭の中は、そんな切なる願いだけに支配され、縋るように、ただ、彼を見詰めた。



