嬉しすぎて、浮かれ過ぎていて、ここがどこだかなんて、そんなことにまで気持ちが行き届かなくて。
どこか遠い異世界へ、心が旅立ってしまっていた。
だから、
家のドアがガチャリと音を立てて開いた時、心臓が止まるかと思うほど驚いた。
きっと、田所は私以上に驚いたに違いない。
弾かれたように私から離れ、不自然なほど背筋をピシッと伸ばして真っ直ぐ立った。
田所の、カチコチの『気を付け』姿勢に、ちょっと笑えて無意識に頬が緩んだ。
母が、家に居ることを完全に忘れていた。
今日は休みだった。
朝私が出掛ける時はまだ寝ていたから、すっかりその存在が自分の中で消えていた。



