こんな時にまで我儘を言う田所に、思わず吹き出してしまった。
「何笑ってんだよ?
俺はすげぇ真剣なのに。
真剣に死にそうだから、頼むから早く……」
呆れるほどの幼稚な要求を遮って、田所の首に両腕を巻き付けて勢いよく抱き付いた。
田所の匂いが、空気と一緒に鼻から流れ込んできて私を満たす。
その懐かしい香りに、私の身体は悦びに震えた。
きっと、田所は今日もお兄さんの仕事を手伝って。
私がバイトから帰宅する時間に間に合うように、いつもは浴びるシャワーも省いて、着替えだけを済ませてここへ来てくれたんだ。
そう思ったら、益々愛しくて幸せで。
「これが……ほのかの答え?」
顔は見えないけれど、田所の声は少し弾んでいるような気がした。



