とうとう田所が目の前まで来てしまい、その表情を私の視覚がしっかり捕えた。


 泣きそうな、困ったような、照れたような、笑っているような。

 とても複雑な感情が入り混じったその顔には、右目の下頬骨辺りに擦り傷があり、右の口元には赤紫の痣ができていて、昨日のせなくんとの喧嘩の凄まじさを嫌でも彷彿とさせる。


 けれどもやっぱり完璧なほど整っていて。

 私を魅了して止まない。
 愛しい気持ちはまた膨れ上がる。



「これ」

 言いながら、フッと軽く握った拳を私に向かって差し出すので、その下に受け止めるように両手を持って行った。
 田所が手を開けば、その中にあった物がポトリと私の手の中に落ちた。