断る理由もないまま「うん」と返せば、「着替えてからまた来るわ」と、ようやく田所の骨張った大きな手が私のそれからスルリと離れた。
ちっとも去ろうとしない田所を不思議に思いながらも、ゆるゆると背を向け玄関へ向かうと、
「お洒落して来いな」
また不意打ちで背中に声をかけられた。
ふんわり温かくて、
けれどもどこか冷ややかで。
恐る恐る振り返ると、もうそこに田所の姿はなく。
慌てて門の外へと舞い戻れば、愛しい人の背中は既に小さくなっていた。
何だろう、この感じ。
モヤモヤ? ソワソワ? ジンジン?
どれも違う。
息苦しい、なんだかとても。
怖いんだ、多分。
いつもとは違う田所に、不安を通り越して恐怖を感じているんだ。
理由はわからないけれど。



