ワケがありまして、幕末にございます。






「んじゃ、俺等そろそろ行くわ」




新八っちゃんがアタシの肩にポン、と合図。

目を開かなくなってからというもの、新八っちゃんはアタシの前から去る時にこういった合図をしてくれるようになった。


その手がどこか小さくなったような。




「…新八っちゃん、」


「大丈夫、愁は今まで通りでいてくれよ。
それが俺等の力になる」




じゃーな、と足音が去っていく音。



寂しい、さみしい、サミシイ



2人の空気がそう言ってる。

けどそれに気付くことが出来る人はきっと少ない。

皆こういうことを何回も乗り越えてきたんだ。
隠すのもうまい。




「…市村」


「丞」




きっと彼もそれに気付いてる数少ない1人。




「彼は…どう?」


「だめやな、きっともう刀は握れん」




平助を斬った新人隊士。

彼は体の傷よりも心の傷が大きくて。


縁側に座ってはボーっと焦点の合わない目で外を見ているだけになってしまった。



そして。




「覚悟の時や、市村」




その一言で沖田さんの体の状態を知る。




「…っ」




ダメだダメだ、心を強くもたなきゃ。

飲み込まれるな。


握りしめた手のひらに爪が痛い。




「おいこら市村、俺の仕事増やすなや」




手首をとられてプラップラと振られ、きっと爪痕が残っているだろう掌をペチン、叩かれた。




「永倉さんも言うてたやろ、お前はそのままで居ったらええんや」


「…」


「お前は今見えてへん分、人に敏感やけど」


「……」


「お前もその内の一人ってこと忘れるなや」



厳しくて、真剣な声色。


あぁ、そっか、アタシも心配されてるんだ。

此処の人たちは分かりにくくて、それでいて…温かい。




守るんだ


新撰組を


土方を


沖田さんを





アタシのすべてを懸けて