ワケがありまして、幕末にございます。





とっくん……とっくん…



人が生きている音が聞こえる。



僅かに身じろぐと長い腕がアタシを固定していて、乱れた胸元から顔を動かせない。




「…起きたか」




頭上から降ってくる掠れた声に、長い時間寝ていたのだろうと他人事のように思った。




「てめぇ寝すぎなんだよ」


「はぁ?
んなこと言ったって…まだ夕方じゃん」




屯所に帰ったのが朝…だからまぁ寝すぎっちゃ寝すぎだけど、夜寝てないから良いと思う。

許される範囲内だ。




「バカ野郎、丸1日経ってんだよ」


「………んなバカな」


「だからバカ野郎っつってんだよ」




ま、まだ許される範囲内だ。

…多分。




「…左之達は帰って来た?」


「あぁ。一緒に帰って来た」


「そっか…」




平助も帰って来たんだな。



おかえり、平助。




「痛くねぇか」




その話はもう終わりだ、というように左肩の包帯を辿る土方の指。


そのまま素肌をゆっくり滑っていく。




「山崎には診せてねぇんだ」




そういえばあんまりにも普通に男として過ごしていたから忘れてた。


丞に傷見せてたら一発でバレてた、そうでした。




「とりあえず薬は飲ましといたから多分大丈夫だ」


「多分て何」


「多分は多分だ」


「クソ適当だな」


「うるせぇ」




黙ってろ



掠れた声とアタシの目元にかかる吐息。



あ、食べられる。