ワケがありまして、幕末にございます。






部屋に入ってすぐいつもの匂いに包まれた。




「…我慢してたんだ?」




アタシを抱えている腕は微かに震えていて、顔に手で()れれば筋肉が強張っていた。




「…総司」




また顔の筋肉が一段と固くなる。


この、強情ヤローが。




「…ここには誰もいないからさ、表情くらいはいーんじゃねーの。俺は見ないし」


「…くそっ」




そう言った瞬間、土方が崩れるようにアタシに寄りかかってくる。



この人が弱さを見せれるのはいつもこの部屋だけだ。

煙管の匂いの充満した、この狭い空間だけ。



あまりに強い力で捕まれるから固まっていた血が引き攣り滲み出てくる。


まったく、痛いな…

でもそれぐらい土方にとっても沖田さんは大切な人で。



あの3馬鹿がなにかしらの絆があるように、この2人にも断ち切れない絆がある。


…いーなぁ




「羨まし、いな…」




アタシも土方に体重をかければ一気に体が重くなった。


あ、重力に勝てない。



意識が遠のいて…












「…市村?」