ワケがありまして、幕末にございます。





「…屯所、戻らなきゃ」



瞼の向こう側が明るんで来た頃、アタシはよろよろと立ち上がる。



乗り越えるんだ、こんな痛み、新八っちゃんや左之に比べたら何でもない。


土方や丞だって頑張ってる。


沖田さんも………沖田さん、?



なんだか胸騒ぎがした。




――「ゲホッ、ゴホッ」




遠くで咳が聞こえる気がする。

前と同じ、嫌な予感。



寝ているよな?

無理に体動かそうとかなんて、してないよな?



悪い方の想像ばかりが頭に浮かぶ。

いやそんなまさか。

けどもしかしたら。




血が足りなくて震える体を叱咤して、アタシは急いで足を動かした。
















「沖田さんっ!」




屯所に着くやいなや沖田さんの部屋へ向かう。


あまりにも焦っていたからなのか、それとも気配がなかったのか。




ドンッ―――ガタガタッ




部屋の前で誰かにぶつかってしまった。


ううん、誰か、なんて触れた瞬間香る匂いで分かった。




「土方…」




きっと部屋の前、ボーゼンと土方が立っていたんだ。



あぁ、遅かった。

沖田さんが一生懸命隠していたのを見てしまったんだ。




「ゴホッ…ごほ、ゴボッ…」




中から沖田さんの苦しむ音がする。


すぐにでも中に入って沖田さん、って声をかけてあげたいけど。

此処に土方さんがいるって知ったら。


でも。



一瞬思考を停止して、冷静にならなきゃ。



2つを1度に守ろうなんて無理だ、それは多分どちらも失ってしまう。


だったら。


アタシのすることはひとつ。




障子を開けると気配が2つ。

1人は丞で、もう1人、苦しむ沖田さんの背に手を添えた。




「沖田さん」


「ゲェッホ…ゴホッ、しゅ、…ゲホッみな、ぃで」


「沖田さん、大大丈夫」


「ゲホッ…けほ、しゅ、うくん…」


「沖田さん…ただいま」




優しく撫でていると添える手の上から、もうひとつ、大きな手。




「総司」


「けほっ…ゴホッ、土方さ、」


「大丈夫…大丈夫だ」




一瞬だけ和らいだ顔を見せてから、安心したのか体力の限界がきたのか、目を閉じて意識を落とした。