ワケがありまして、幕末にございます。






盛り上がりのてっぺんを越えた頃。
これ以上は皆悪酔いしかしないだろうと思い、それを阻止するべく動く。




「誰かなんか弾ける人いませんか?」


「おっ愁、なんかやるのか?」


「まぁ、せっかくこんな格好してるので」


「俺、地味に弾けるぜ!」




薄く目を開くと上半身裸の左之助がぶっさいくな腹顔を隠しもせず手を上げていた。



流石、伊達に島原通いしてないな、こいつ。

どうせネェちゃん達が教えてくれたんだろう。




「なんでもいぃからさ、適当に弾いてよ」


「まかしとけぃ!」




うちらが弾きますよって、と焦るオネーサン方を笑みでかわし、胸元の扇子を拝借。




…べん、べべん、べん、べべべん…



鳴り始めた音に合わせて足、腕、首、肩、手首…体の至る所をこまめに、時に大胆に、そして優雅に風にのせる。


あー凄く久々。
現代ではそれなりにやってたけど、こっちじゃずっと刀しか持ってなかったから。


使ってなかった筋肉が軋む。

人を斬る時とは違う柔らかい動き、たまに揺れる髪さえも、上品に、妖艶に。



空気が静かに流れている気がする。

誰も話をせずにアタシを見ている気がする。


それでいいんだ。
アタシはとにかく魅せるだけ。








――…パシュッと扇子を閉じ、膝をつき礼をする。




「だ、」


「だ?」


「ダレですか…」




…かっちーん。

素直に凄いとか綺麗だとか言えないのかここの狼たちは。



持ち前の瞬発力を生かし一歩で間合いに入り扇子を刀に見立て首筋にピタ…と当てる。




「お兄さん、死にはります?」