ワケがありまして、幕末にございます。





「あっ、あのこれは診察の後だからどうしても着物が…」


「「知ってます。」」




もじもじしないで下さい。

つかすんな。

てゆーか何で着直してねんだ。



この時確かにアタシと土方の心はひとつに揃っていた。




‘完璧コレは襲って的な状況だろ、おい’


‘…お前が襲えよ’


‘…ヤだよ、どう見たって土方狙いじゃん’




目だけでそう言い合うアタシ達に




「何故部屋に2人で…というか何で市村がいるのかしら」




ともじもじから一転イライラに変え、やけに刺々しく言い放つ。


アタシは気持ち悪い動きを見ないよう目を閉じ、いつもの如く耳だけに感覚チェンジ。




「俺はこの人の仕事を手伝いに…小姓なんで。
邪魔なようなら出て行きますが」


「あら、そう?」




声からしてまたもじもじ星人へと変貌したな。

もう何も言えねぇよ。



…何か黒い人にすんごい睨まれた気もするけどスルーしよう。




「診察!
もう行くんで」


「なんなら着いて行きま…」


「いや結構です。」




お、すげぇドきっぱり言った。

きっとまた鳥肌立ってるんだろうな(笑)





残念そうに歩いて行った影が感じられなくなった頃、ギ、と畳が|萎《》びたと思ったら




「てめぇ後で覚えておけよ」




耳元で冷たく低すぎる音が鼓膜を揺らし、アタシの頭でエコーした。



や、やだなぁ冗談で言ったんだよ



と弁解する暇もなく彼は部屋を出て行った。



残されたのは終わりが見えない仕事と、未だに揺れるさっきの音。


それと再びアタシに突き付けられた死亡フラグ。



…逃げていいかな。