受け取った苦無を構え、木に向かって風を斬った。



とす、と自分が狙った所とはズレた場所にそれは刺さった。




「ん〜…やっぱあん時はまぐれか…」


「そこ狙ったんとちゃうんか」


「違う。
あの平行な切り傷のど真ん中に刺して十字にしようとしたの。

ま、現実は十字架みたいに右寄りに刺さってますけどね」




ひとつ、瞬きをして木の幹から目を離せばさっきのアタシの様に真っ直ぐ其処をみていた。




「…全てを読むんや。
風、物体、どう揺れるか、どうやって動くか」




まるで呼吸をしているみたいに自然に構えた丞の集中力は崩れない。




「人に見立ててる時もそうや。
まぁ俺の場合は自然と急所狙ってまうけど」




もうクセやな、と苦笑気味に顔を歪ませる丞に、大きい藁人形を思い出した。



ある時見た、その藁人形には。

頸動脈を始め人間の急所という急所に少しのズレもなく的確に苦無があった。




…やっぱ、この人達は強いな…色んな意味で。



トッ――



十字になった苦無と切り傷に、ふッと笑った。




「丞は…頑張ったんだね」


「…“忍”やからな。
小さい頃からそれしかやってけぇへんかった」




丞の生家は大阪の針医者。


だけど丞は人を殺す術しか身につけなかった。



“どこをどうすれば死ぬか”



きっと丞もそう思ってる。


でも、違う。


その知識は、絶対に役に立つ。




「丞、」


「?」


「新撰組、大切でしょ」


「あぁ、」


「なら、大切なものを守る新しいその方法…手に入れてきてよ」




時期的に、もう松本良順先生に会っているはず。


アタシは丞の医者の姿が見たい。


丞の持っている知識は



“どうすれば助けられるか”



に変わるから。




「…元からそのつもりやし」


「ふふ…知ってる」





そして丞は数本の苦無をアタシに手渡し、医者になるべく新撰組を空けることになった。









“我は新撰組の医者なり”








そう、彼が言う日が来る。