お茶を飲み終えた斎藤さんが立った時。 「…今の“この瞬間”は二度と来ない。 素朴な“この瞬間”でさえ恋しく思う日が必ず来る。 …大切に生きろよ」 うっすら目を開けると斎藤さんは遠くを見る様な瞳をしていて、呟いた。 そう、呟いた。 とても小さい声だった。 あたしでも聞こえるか聞こえないかぐらいの。 斎藤さんは天然だ。 でも何かを悟っている感じがする。 何かを知っている様な。 彼の足音を見送りながらそんな事を思った。