ワケがありまして、幕末にございます。






――ピッ




そんな素朴な音で彼女は倒れた。



息はしていない。


首から吹き出る血に、ハッと我に返って頸動脈を斬ったのだ、と理解した。



そして父の息が更に浅くなったのが、耳に僅かに届いた。



血が、止まらない。


そこは血の水溜まりと化していた。



もしかして、もう…



何で直ぐ止血しなかったんだろう。
もしかしたら間に合ってたかもしれないのに。





『しゅ、う…ごめんな…生きろ、…お前は、生き…ろ』


『とうさ、ん…?』




最後の力を振り絞る様に父が手を伸ばす。

アタシに向けられたその手は真っ赤に染まっていた。




『しゅう…あい、し…』




――トッ




手が、その場に落ちて。



段々と息と息の間が開いて、ついに。




『とうさん…』




倒れた花達も血に染まり、1人アタシだけが其処に立つ。



握っていた刀はまるで紅に犯された白い梅の様だった。