ワケがありまして、幕末にございます。





『と、うさん』




父の左肩に走る傷を見て、カタカタと刀が揺れる。




『こ、香さんっ…!
何でっ、何でっ!!』




甲高い声が、いつもより更に高く。




『父さん…』




父の右肩から、血が吹き出す。




『何で、香さん、何で』




アタシが負うはずだったその痛みは父が負い、彼女が負うはずだったその痛みも父が負った。



父は背後から右肩に深く、そして前から左肩に浅く。


血が、出ていた。



さっき父が来た瞬間、勢いを殺して止めようとしたけど…間に合わなくて。



早く止血しないと危ない血の量が右肩から出ている。

いくら浅くても左肩から出ている血だって少なくはない。



分かってる。

分かってはいるけど。




『アハハハハ!
自分の父を斬るなんて!
化け物!鬼!』




自分の事を棚にあげて発狂する彼女に、憎しみが。




『アンタがいなければ!』




プツン、何かが切れた、音がした。




『アンタなんて産まれなければ…』


『うるさい』


『えっ…』