ワケがありまして、幕末にございます。





「…分かった」




ハァーなんて分かりやすくため息をついて。


その息がかなり近くて後ろに後退(あとずさ)ろうとした。



しかしそれを力を入れて拒む腕。



離せやおい。



近いよ、近すぎるよ。




「…市村」




アタシの心臓とは逆に冷静で静かな声に、アタシも落ち着く事が出来た。




「、ん?」


「お前昨日何を思った?」


「…何、って?」


「鬼になって何を思った?」




鬼。

つまり人を斬って何を思った、と聞きたいのだろう。



ドォーン、花火が鳴る。



…アタシは何を思った?



斬って、ただ斬って。


…なにを、何を。


いや、何も。



アタシは何も思ってない。



ただ人を斬る鬼の様に、何も思わず。



…本当の鬼は土方ではなくアタシかもしれない。



黙ったアタシに土方は促す事もなく次の言葉を紡ぐ。