ワケがありまして、幕末にございます。





互いに何も言葉を発さず、着いた先は煙管の匂いが染み込んだ部屋だった。




「座れ」


「ん…」




強い口調に似合わずアタシを誘導する手は優しい。




「てめぇ、」




土方の長く節ばった指がアタシの前髪を掬う。




「ぶっ倒れちゃ使い物にならねぇ、つったろが」




ぶっ倒れてないよ、全然。



なんていつもみたいに言いたかったけど。


その声があまりにも。


…あまりにも震えてたから。



大丈夫なんだよ。

まだ、出来る。

まだ刀を握れる。


まだ、誓いは守れる。



だから…そんなに震えないで。



まるで…




「泣くんじゃねぇよ…」




握られたままだった手首を引かれ前のめりに倒れる…と思ったけどポス、収まった先は煙管の香る筋肉質な腕の中。