ワケがありまして、幕末にございます。






「―…皆行ったかな」




そこには、何の音も…いや、正確には微かな風の音しかない。


血の臭いが充満する中、手探りに移動していく。



ジャリ、草履と土が()れた。

ということは漸く外に出たらしい。



…おいこっからどう行くんだ。


道わかんないし、ってかまずその前に見えないし。



…とりあえず歩けば着くかな。



一歩踏み出そうとした時




「市村」


「ぅわはい!!」




横から声が。


え、気配無かったんですけども。




「…来い」


「……、すいません」




何も聞かず、何も言わず黙ってアタシの腕を引く気配の無い人…もとい斎藤さん。



…真面目に気配ありませんでした。


影薄っ。




暫く歩くと、ワイワイガヤガヤいてーうるせーざけんなーなど沢山の音。

どうやら祇園会所に着いたらしい。




「ここ、座って」


「あ、はい」




地べたに座ってどうしろと…?


と、斎藤さんは再びアタシの手を引く。


その先にはヒヤリ、水があった。




「あ…ありがとうございます」


「いや…」




それだけ言うと照れ臭いのか、ザ、ザ、違う所へと行った斎藤さん。



本当にありがたい。


斎藤さんが来てくれなかったら水を用意するなんておろか、ここに辿り着くことさえも出来なかった。



いつか蕎麦奢ろう。