「はい。体は少し痛いけど…」
「良かった…！」
ぎゅう、と抱きしめられる。体が悲鳴を上げるが、耐えきれないほどじゃない。
「さ、やか…」
病室に居る人の中で、もっとも格好いい人が私に近づく。この人も、友達だろう。
にこ、と笑ってみせると彼はあろうことか私にキスをした。私はとっさに彼を突き飛ばした。
私の友達と思われる人が皆驚いていた。でも仕方ないだろう、キスは愛し合っている男女がするものだ。
「急に何するんですか！」
私が怒る(怒っても仕方ないと思う)と、また周りを驚かせてしまった。
「その敬語…」
栗色の髪の女の子が私を見つめた。
「ゆうくんには、敬語じゃなかったのに」
淡々と女の子の後ろに居た静かなイメージの男の子がいった。
…ゆうくんって、今キスした人の事？
訳が分からない。
「…あの、」
口を開くと、皆が一斉にこっちを見た。
「ゆうくんって…？」
誰ですか、という前に気の強そうな短髪の女の子が
「あんたの彼氏なんだけど」
といった。たぶんこの子は気付いたんだろう。

「彼氏って一体誰ですか？」

私が記憶を失くしている事を。