「華乃ったら、今日はどこのトイレよ」

教室にカバンを残したまま姿を消した華乃。

きっとまた泣いてる。


個室にこもって泣く華乃の姿を想像して、毎回のことだしなと呆れつつも、放っておけなかった。


「もう、」

右肩の、自分と華乃のカバンを担ぎ直したわたしは、ついさっき買ったペットボトルのオレンジジュースのキャップに手をかけた。


……、ダン…、ダン…


「………、」

体育館から漏れてきた音で完全に足を止めた。

今日は学校側の都合で部活動は禁止されているはずなのに、誰だろう。

その音がなんだかとても気になって、申し訳ないと思いつつ華乃の姿を頭の片隅に追いやって、開けっ放しだった入口からそっと中を覗いた。


「……ぁ、」


先生だ。


誰もいない体育館で、いつもと同じようにシャツの袖を捲り上げた先生が、バスケットボールを手に立っていた。

視線は真っ直ぐゴールに向けられていて、ただそれだけで絵になった。


わたしの黒縁メガネの中だけで存在するのが勿体ないと思うほど。