「お願いがあるんだけど」
歩き出した先生の腕を掴んだ華乃が上目遣いで先生を見る。
「ん?お願い?」
「そう!お願い。あのね、メガホンに書いてあった名前、見たでしょ?その藤木クンと一緒に写真が撮りたいんだけど。先生、撮ってくれないかなぁ、と思って」
「華乃…っ、」
なんてお願いをするんだと、華乃のTシャツの裾を引っ張った。
「願かけ、っていうやつ?ハードルが跳べたら、藤木クンと写真が撮れる、って。そう思って頑張ったの。で!ちゃんと跳べたからさ。ご褒美!頑張ったご褒美ちょうだい」
華乃のお願いに、
「なんで俺がご褒美を?誰かに頼んで撮ってもらいなよ」
って、呆れ顔の先生。
「じゃあ、先生が誰かに頼んでよ。あたしたちクラス違うし、頼みにくいじゃん?」
「………ったく、」
キャップをかぶり直す先生が前髪をかき上げる瞬間を間近で見てしまった。
何気ないその仕草は、わたしの胸の奥をぎゅっと握って離さない。
「ご褒美、ご褒美、ご褒美」
「あー、はいはい。わかったよ」
耳の後ろをぽりぽりと掻いた先生が、5組のクラス席へと歩き出した。
先生の隣を歩く華乃。
そんなふうに自然に、わたしも先生の隣を歩けたらいいのに。