「ところで、先生。……見た?」
華乃がメガホンの内側に書いた名前をわざとらしく指で隠した。
「あぁ、名前だろ?持ち主を探すのにね。
藤木に心当たりがないか訊いたら、知らないって言われたけど」
「えーっ。じゃあ、本人に見られちゃったんだ。
マジかー。そっか。見られちゃったか」
困ったフリをしてるけど、そんなの嘘だ。
どうせ心の中では、ラッキー!……って。
そんなことを思ってるはず。
「こっちは篠田の?」
そう言ってわたしにメガホンを差し出した先生。
ドクンドクンと大げさに脈打つ心臓の音が届いていないといい。
「………すみません」
先生は、そろそろと手を伸ばして受け取ろうとしたわたしの頭を、華乃と同じようにメガホンでコツンと叩いた。
「………、」
「ちゃんと管理しとかないと。こういうことがあちこちであると、来年度から禁止になるからな」
「………は、い」
なんだか泣きそうになった。
俯いたわたしにもう一度メガホンを差し出した先生は、気づいただろうか。
黄色いメガホンの内側に。
黄色いマジックで書かれた小さな文字を。
自分の名前を。