跳べた。
失敗せずに、ちゃんと跳べた。
なんか。なんていうか。
すごく。
「篠田ーっ。走れー」
……え?
えっ…。
あ。そうか。
着地してからほんの数秒。
無事にハードルを跳べたことに安堵したわたしはその場にとどまったまま。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。
体じゅうが熱い。
顔は、きっと真っ赤だ。
だけど。
恥ずかしいけど。
「やば…い、」
先生が。
先生が、わたしの名前を呼んだ。
『走れー』って、言った。
どうしよう。
なんか、うれしくて。
うれしくて。
ゴールしたあと振り返っても、先生と目が合うことはなかった。
でも。
倒れたハードルを元の位置に戻す先生の姿を、しっかりと目に焼きつけた。
黒くふちどられた、わたしだけの世界。
ドキドキしていた胸の奥の方が、きゅうっと締めつけられた。
苦しいというよりも、なんだか甘い。
甘い痛み。



