数日後、各教科の答案用紙の返却がはじまった。
「げっ。サイアク」
「思ってたより良かったかも」
なんて。
教室はお決まりのように騒がしくなる。
そんな中、わたしは自分の名前が呼ばれるのを静かに待っていた。
点数がどうだとか、その心配はもちろんあるのだけど。
先生に送ってもらった日から、先生と顔を合わせるのはこれがはじめてだったから。
ありがとうございました。
すみませんでした。
もう一度、ちゃんと言おう。
そのことで頭がいっぱいで、朝からずっと緊張していた。
「篠田ー、」
どくん、と跳ねた心臓。
のろのろと立ち上がり、重たい脚を引きずるように教壇を目指した。
「ギリギリセーフ、ってとこかな」
そう言いながら渡された答案用紙。
「………、」
この前は、ありがとうございました。
そう口にすればいい。
そう言って、頭を下げたらいい。
頭ではわかっているのに、わたしは黙って答案用紙を受け取ることしかできなかった。
先生の顔を見ることもせずに。



