本当は、先生の車が見えなくなるまで見送りたかった。
でも、ほら早く、と先生が何度も言うから。
深々と頭を下げたわたしはのろのろと玄関のドアの前まで行き、スクールバッグから家の鍵を取り出し、開けた。
「…………、」
背後で先生の車が発進する音がした。
体にまとわりついてくる熱も、鉛でも入っているかのような下腹部の重たさも、どうでもいいと思うくらい。
わたしの意識が後ろへと引っ張られる。
くるりと体の向きをかえたわたしは、スクールバッグを放り出し、門扉を開けた。
「…………、」
急いで飛び出したつもりだったけれど、先生の車は既に見えなくなっていた。
握りしめていたオレンジジュースは汗をかき、ゆっくりとその温度を変えていく。
とくん、とくん、とくん
わたしの心臓の音が、いつもより大きく響いて聞こえた。



