そのとき、大きな木の陰になっている部分に倒れている女性を見つけた。
懐中電灯の強烈な明かりに照らされたのは、間違いなく美穂の姿だった。
県道のすぐわきに。
投げ捨てたというより、そっと寝かせたかのように。
脇に美穂のバッグもある。

「美穂!」
お腹のあたりが大きく動く。生きていた!
「美穂!」
着衣の乱れもない。目をあけて一瞬驚いた顔をする。
「修?」
「今、直ぐに救急車を呼ぶからな。しっかりしろよ」
携帯電話で救急車を呼ぶと美穂の傍で手を握ってやる。
「大丈夫、もうすぐ」
「ありがとう。私・・・」擦れるような声は
聞き取れない。
やがてわおんわおんと大きなこだまが聞こえてきた。

なぜ俺がこの場所を知っているのか、調べられるだろう。ストーカー行為で逮捕されるかもしれない。当然、美穂とも終わりだろう。でも美穂を助けることができた。それで充分だ。

警察に同行を求められ事情を説明したが、最初は何を言っても信じてもらえなかった。犯人扱いだった。「うまくいかなくなって殺そうとしたんじゃないのか?」
自分の携帯で美穂の居場所を示す点が、警察署で表示されているのを見た
捜査官がやっと信じてくれたのは、明け方に近かった。

担当の黒木刑事は「結果的に君の行為が彼女を救ったが、ストーカー行為は犯罪だ。起訴される可能性があるぞ。それにいつからやっていたか、知らんが・・・。彼女は許さないだろう。彼女を拉致した男は、状況から彼女をはねた可能性がある。慌てて自分の車に乗せて・・・生きているので驚いて山に置き去りにしたんだろう。ま、すぐに捕まる。」
「わかってます」
「病院からの連絡では、彼女は大丈夫だそうだ。かなり衰弱しているし怪我もひどい。鎖骨を骨折しているが入院は1カ月程度ということだ。」
「良かった。ありがとうございます。」
「警察としてはこの事情を彼女、もしくは彼女の家族に話すことになる。」
「はい。わかってます。もう彼女と会うことはないです。」
黒木はじっと修の顔を見た。
「とりあえず今日は、帰宅していいよ。ただいつでも連絡がつくようにな。まだ聞きたいことがでる可能性もある。」