棚沢茂は、国道20号を急いでいた。15年前にローンで購入した小型の国産乗用車は、カーブのたびに悲鳴をあげる。工事中?脇道へそれる。自宅には、高校生の息子と要介護認定の母がいる。あと3か月で息子も卒業だ。都内の印刷会社に就職が決まった息子は、俺に似て出来がいい。妻とは6年前に離婚して、今は他の男と一緒らしい。
派手な年下男と再婚しやがって・・・。
母親の面倒だけでなく子供の面倒すら見ない。
今のような時代、めずらしくもなんともない話だ。

カーナビも何もついていない車は、細い道をスピードを上げて走る。
22時を少し過ぎたか、人はほとんど歩いていない。いや、全く。
左側は公園があり、大きな銀杏の木が並んでシルエットが、月に映る。
一瞬、上を見上げた瞬間、どんと大きな衝撃を茂は感じた。
すぐに車を止めた。

「犬?」何かにぶつかったのは、わかったが、そう信じたかった。
今まで、事故など起こしたこともない。
動悸がして、手が震える。
ドアを開けて前方へ歩く。