彼は、理想の tall man~first season~


「尚輝、珈琲置いとくね」

邪魔にならないよう気を付け、2つのカップを置いて、部屋から出て、ご飯の支度を再開。


ご飯が出来上がるまで待っててもらうのも、ちょっとね――なんて思っていたから、丁度いいって考えればいいんだけど。

1人でせかせか作っていても、なんかつまらない。

別に尚輝に敦君を取られたからって、ヤキモチってワケでもないし――だけど、なんか引っ掛かる。

モヤモヤした気持ちで作り進めるのもなんだかなーって気になって、リビングにあるオーディオのスイッチをオン。

こんな時は、やっぱり音楽を聴くに限る。

お気に入りのクラシックピアノ大全集のCDを流して、私は再度キッチンスペースに入った。

「早く届かないかなぁ」なんて独り言を言いながら、葉物を茹でて、野菜を切り刻み。

荒れそうだった気分は幾分紛れて、父親に買って貰った電子ピアノに想いを馳せた。

結婚式の披露宴まがいの二次会で弾く曲も、キチンと練習しないといけないし。

何より弾けない日常から、早く脱したい。

離れてみて案外平気だった――けど、一度触れるとやっぱりって気持ちになって、弾きたい症候群だ。