「いいね、お父さんと服とか買いに行ける仲って。うちの父親と姉貴じゃ、まずないな」
私の家は父親がいないことが多かったから、父親がいる時は、ここぞとばかりにどこかに出掛けて。
存分に甘えるというのが当たり前になっていたから、私にとっては普通のこと。
だけど、思春期の頃は、父親の文句しか言わない友達からは、気味悪がられたのも事実。
父親とふたりで出掛けるとか、まずないと否定された時は、逆に私には衝撃もので。
ただ、学生の頃からそんな反応だったから、敦君の反応も至って普通なんだと思う。
「因みに尚輝は荷物持ちで、だけど途中でふらっといなくなっちゃって」
「――え?」
「尚輝が、一旦荷物を置きに車に戻るって言いだして、でもその後電話があって、後で合流するからって――ただ、その尚輝がいないのをいいことに、」
「うん?」
「父が、誕生日プレゼントに、ピアノを買ってくれて」
「え、ピアノ?」
「あ――ピアノって言っても、電子ので、」
「いや、電子でも、ピアノはピアノだよね」
まさか、私も本当に買ってもらうことになるなんて思っていなかった。
だから、敦君のレアな驚き顔も納得だ。


