「それじゃ、ピアノをやめて、上京してからあのバーでアルバイトしたんだ」
「はい。やめなきゃ良かったなって、今考えると、何でやめたのか――若気の至りって言えばいいのか――それはでも、浅はかだったとしか」
なんの為に弾いているのか、自分で良く解らなくなってしまって、人から言われたことにも流されて。
気の迷いで、半分勢いで止めてしまったピアノは、習う事はやめても、自宅で弾き続けていたけど。
ひょんなきっかけでマスターに出会って、お客様の――誰かの為に弾いたことで、そのモヤモヤは解消されて。
学生時分の私には、その稼ぎが生活費でもあったから、誰かの為イコール自分の為でもあったから、弾くことの意義を見出せた。
ただピアノが好きだらから、ピアノのレッスンも全く苦ではなかったけど。
遊びを途中で切り上げて毎度帰る私に、「そんなに練習してなにになるの?」って、当時はガツンと、その言葉でやられたんだ。
ピアニストを目指していた訳でもなし――好きだから、なんの疑いもせず、ただ夢中で練習していたけど。
本当に、ピアノの職業に就こうとか思っていなかったから、なにになるんだろうって。


