「真っ直ぐ帰る? それとも、飲み直して帰る?」
「――え?」
小ビルを出た直後、予想もしていなかった敦君からのその問いに、私は今日一番、本気で戸惑った。
「あの、帰って、お仕事されるんじゃ――」
「いや、ああでも言わないと、終電コースになりそうだったから」
「――え?」
「小川と飲むと、大概遅くなるから」
「そう、なん、ですか?」
ということは、抜け出す為に吐いた嘘だったってこと?
「あんまり遅くなってもあれだから、とりあえず帰りながら決めよっか」
「――はい」
駅に向かって並んで歩き始め、通りに出ると、すっかり夜の街並みで。
あちらこちらで煌びやかなネオンが光っていた。
普段智子と通うヨガは、こちらとは逆の西口だから、あまりこの界隈に詳しくない私。
下手にキョロキョロ視線を彷徨わせていたら、一本の路地が目に入り。
前から歩いて来る仲の良さそうなカップルがいて、丁度その路地に曲がって歩くのをなんとなく目で追っていた。
飛び込んだ来たのは、俗に言うラブホ街で――。
私は慌ててそちらから進行方向に視線を戻した。


