突然帰る雰囲気の敦君に、私は取り残された気分で、気分が急降下。
せっかく会えたのに、先に帰っちゃうなんて――。
やっぱり敦君にとって、私はただ形式上だけの彼女なのかな。
私は疑心暗鬼に陥りかけた。
「美紗も先に帰るか? 昨日は遅かったし」
「――え?」
陥りかけた私に、尚輝からの神発言。
そして、敦君が「行こう」なんて、これまた神発言をしてくれて。
あれよあれよで、私は敦君と名の知れない居酒屋の個室を後にしていた。
広いとは言い難い通路を、敦君の背中を見ながら歩いていた私の高揚感は、半端ない。
急降下した直後、急上昇した気分に多少の戸惑いもあったけれど、嬉しさの方が勝っていた。
店員さんに静かに見送られ、階段を下り始める。
無言の背中は、急いで帰りたい故なのか――どうなのか。
でも、突然2人っきりで一緒に帰れることになっただけでも、ラッキーだと思っていないと、バチが当たりそうな気もする。
恐らく多くを望んではいけないこの恋は、流れに身を任せながら、うまいことモチベーションを保つしかない。
今日も帰宅後に仕事をしなければいけない敦君と、帰宅後に明日の準備を整えてお風呂に入って寝る私とでは――。


