いきなり耳元で――あんな優しい声で囁かれたら。
思い出してまた顔が熱くなる。
これ以上それを思い返すのは、自滅行為にしか思えず、頷いて席を立った。
そして、松本さんの後を追って座敷を抜けた。
それにしても、さっきの松本さんの親指の動作は一体なんだったんだろう?
お店のサンダルに足を入れながら、同じ動作をしてみる――。
もしかして、車のキーの施錠と開錠動作?
ああ、だから納車のことだろうと敦君はそこから繋げてそう言って来たのか。
「すみませーん! すぐ終わるんで、ここ、ちょっと座らせてもらってもいいですかね?」
「あ、どうぞー」
従業員の人に了解を得て、私の分の椅子も引いてくれた松本さんと2人、カウンター席に軽く腰を下ろした。
「ごめんね。本当なら、会社の方から直接電話しないとなんだけど」
「あ、いえ」
「正式に引き渡し可能な日程が決まったから、いつ引き渡しがいいか聞こうと思って」
「え、本当ですかっ」
システム手帳のカレンダーを私に見せてくれて、ディーラーに入庫される日と引き渡し可能日を説明してくれた。


