「ああ、中條、お前今日この後の予定は?」
「特には――ってとこだな」
「彼女も予定ない?」
予想通りの話の展開で、軽く頷き返すと――
終わったら飲み行くか?
長山はそう言いながら、軽く笑った。
「藤本、お前もこの後予定ないんだろ?」
「お? おお」
歌を口ずさんでいた藤本は、不意だったであろう、長山の問いに瞬きを繰り返す。
が――すっかり飲む気満々な空気に変わり、カラオケに行きたいだとか、焼肉を食べたいだとか、好き勝手言い始め。
ひとり勝手に盛り上がりを見せる。
練習よりも休憩時間や飲み会の方が活躍していた藤本は、変に気を遣って誰かが場を盛り上げなくても、藤本がいればなんとかなる、そんな存在だった。
「ま、最終的に俺はなんでもいいかな」
「さすが、やかまし大臣」
久々に昔の仲間に会って、懐かしい感覚が徐々に蘇える――。
彼女が1曲ピアノを弾き終えた所で、藤本が席を立ち、ステージ際まで歩み寄った。
こちらに聞こえてくる声は、これからピアノと合せて練習したいという内容。
喩えカラオケでも、歌うことが苦でしかない俺にとって、それは尊敬に値する行為。


